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広島地方裁判所 昭和56年(ワ)125号 判決

原告

川政峯子

被告

斎藤郁朗

主文

一  被告は原告に対し、金八〇万八、六五〇円及び内金七二万八、六五〇円に対する昭和五五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一六九万一、七九〇円及び内金一五四万一、七九〇円に対する昭和五五年六月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和五五年六月三日午前一〇時ころ

(二) 場所 広島県佐伯郡佐伯町峠三三三番地の三三田義美方前路上

(三) 加害者及び車両 被告運転の普通乗用自動車(広島五五ま一五九三)(以下、「加害車」という)

(四) 被害者及び車両 原告運転の原動機付自転車(佐伯町七〇七一)(以下「被害車」という)

(五) 態様 被告が、道路左側に停止していた加害車の運転席ドア(右側前部ドア)を内側から開けたところ、加害車の後方から進行し、同車の右側方を通過しようとしていた被害車が前記ドアに衝突した。

2  傷害及び後遺症

原告は右事故により、左足挫創、左膝打撲、腰部打撲の傷害を負い、昭和五五年六月三日から同年八月一日まで六〇日間、広島県佐伯郡五日市町所在の青木外科医院に入院し、同月二日から同年一一月二〇日まで一一一日間(実通院日数三七日)通院し、さらに、その後も左足関節痛の後遺症が残り、自賠法施行令別表第一四級の認定を受けた。

3  責任

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものである。

また、本件事故は、被告が停止中の加害車のドアを開けるに際し、後方から他の車両が進行してくるかどうかを確認することなく、被害車が加害車の右側横に来た瞬間いきなり運転席ドアを開けた過失によつて生じたものである。

よつて、被告は、自賠法三条、民法七〇九条により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 医療関係 五万〇、八八〇円

(1) 広島総合病院 一万〇、八八〇円

(2) 安野療院 四、〇〇〇円

(3) 診断書料 一、〇〇〇円

(4) 入院付添費 三万五、〇〇〇円

(二) 休業損害 五九万五、九八〇円

原告は本件事故当時満四三歳の主婦であり、入院中は完全休業、通院中は半分程度の休業を余儀なくされたものと考えられるから、同年齢の女子の平均給与月額(昭和五四年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計の年齢別平均給与額を一・〇六七四倍したもの)一五万四、八〇〇円を基礎に原告の休業損害を算定すると五九万五、九八〇円となる。

(154,800×2+154,800×0.5×111/30=595,980)

(三) 後遺障害による逸失利益 二七万八、六四〇円

原告の前記左足関節痛の後遺症は自賠法施行令別表第一四級に該当し、原告はその労働能力の五パーセントを喪失した。そして、右状態は症状固定日たる昭和五五年一一月二〇日以降少なくとも三年程度は継続するものと思料される。したがつて、前記平均給与月額一五万四、八〇〇円を基礎として原告の逸失利益を算定すると二七万八、六四〇円となる。

(154,800×0.05×12×3=278,640)

(四) 雑費 六万九、八〇〇円

(1) 入院中雑費 三万六、〇〇〇円

一日六〇〇円とし六〇日間

(2) 通院交通費 三万三、三〇〇円

一日九〇〇円とし三七日間

(3) 事故証明料 五〇〇円

(五) 慰藉料 一七五万円

(1) 傷害による慰藉料 一〇〇万円

原告の前記傷害による慰藉料は一〇〇万円が相当である。

(2) 後遺障害による慰藉料 七五万円

原告の前記後遺症による慰藉料は七五万円が相当である。

(六) 物損 一万〇、一五〇円

被害車の破損により、一万〇、一五〇円の損害を受けた。

5  損害の填補

原告は、本件事故の自賠責保険金として傷害分四六万三、六六〇円、後遺症分七五万円の各支払いを受けた。

6  弁護士費用 一五万円

原告は本件訴訟の提起と追行を本件原告訴訟代理人に委任した。

7  よつて原告は被告に対し、自賠法三条、民法七〇九条に基づき金一六九万一、七九〇円及び弁護士費用を除いた金一五四万一、七九〇円に対する損害発生の日である昭和五五年六月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実のうち、(一)ないし(四)は認める。(五)のうち、被告が、道路左側に停止していた加害車の運転席ドアを内側から開けたこと、及び被害車が加害車の右側方を通過しようとしていた事実は認めるが、その余は否認する。

2  同2のうち、原告が青木外科医院に入通院した事実は認める。実通院日数につき、三五日の限度で認めるが、それを超える部分は否認する。傷害の部位及び入院日数については不知。

3  同3のうち、被告に自賠法三条の責任があることは認めるが、その余の事実は否認する。

被告は、運転席ドアを開けるに際し、後方を確認したところ、約一五メートル後方から被害車が進行してきたのを認めた。しかし、本件事故現場は直線道路で見通しが良く、車馬の交通もなかつたので、被告は、原告が加害車より若干離れたところを進行すると考え、危険はないと思いドアを開けて右足を道路につけた途端、近付いてきた原告が驚いて転倒したものである。

4  同4のうち(一)は認める。(二)のうち入院中の完全休業は認めるが、通院中の休業については実通院日数の三五日の限度で認める。その余は不知。(三)について、後遺症の継続期間が三年であるとの事実は否認し、その余は不知。本件事故による後遺症の継続期間は二年とすべきである。また、中間利息を控除すべきである。(四)のうち(1)(3)ば認める。(2)については実通院日数三五日分の限度で認め、それを超える部分については否認する。(五)について、傷害による慰籍料については七〇万円未満、後遺障害による慰藉料については六〇万円ないし五五万円が相当である。(六)については不知。

同5の事実は認める。同6の事実は不知。

三  抗弁

1  過失相殺

原告は、本件事故現場の道路右側のガソリンスタンドにいた夫の友人に挨拶するため気をとられ、加害車への注意がおろそかになつていた。また、原告は、本件事故現場は見通しが良く、車馬の通行もなかつたのに、加害車の右側方の近距離を通過しようとして本件事故が生じた。さらに原告は、加害車の左側に約一・八メートルの通行できる余地があつたのに、加害車の右側を通行しようとした。

2  原告は、本件事故により、自賠責保険から、傷害分として原告主張の四六万三、六六〇円の他に七三万六、三四〇円の支払いを受けた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実のうち、原告が加害車の右側方は近距離を通過しようとした事実は認めるが、原告が本件事故現場の道路右側のガソリンスタンドにいた夫の友人に挨拶するため気をとられ、加害車への注意がおろそかになつていた事実は否認する。

加害車の右側面はセンターラインから八一センチメートルの位置にあり、加害車の右側方を通過するためにはセンターラインを越える必要があつた。

2  同2の事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の事実のうち、(一)ないし(四)については当事者間に争いがない。同(五)の事実のうち、被告が、道路左側に停止していた加害車の運転席ドアを内側から開けた事実、被害車が加害車の右側方を通過しようとした事実は当事者間に争いがない。いずれも成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二ないし第四号証及び第七号証並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、被害車が加害車の運転席ドアに衝突した事実が認められる。なお、被告本人は、被害車と加害車のドアは衝突していないと供述するが、前記乙第一号証の一、第二号証によつて認められる加害車の運転席ドアに塗膜剥離があり、被害車の左ブレーキレバーに白色塗料を付着していた事実及び原告本人の反対趣旨の供述に照らすと、これを信用することができない。そのほか、前記認定を左右するに足りる資料はない。

二  傷害

請求原因2の事実のうち、原告が青木外科医院に入院した事実は当事者間に争いがない。いずれも成立に争いのない甲第二、第九号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば次のような事実が認められる。

原告は本件事故により左足挫創、左膝打撲、腰部打撲の傷害を受け、事故当日たる昭和五五年六月三日から同年八月一日まで六〇日間入院した。その後も、原告は翌二日から同年一一月二〇日まで一一一日間、前記青木外科医院で通院治療を受けたが、実通院日数は三五日間であつた。また、原告は本件事故により左足関節の神経痛様疼痛及び腫脹による機能障害を遺して、右一一月二〇日症状が固定し、自賠責保険の査定において一四級の認定を受けた。以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし信用することができず、他に右認定を左右するに足りる資料はない。

三  責任

請求原因3のうち、被告が加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであることは当事者間に争いがない。

前記乙第一号証の一、二、第二ないし第四号証、第七号証及び証人栗栖町子の証言、原、被告各本人尋問の結果を総合すれば以下の事実を認めることができる。本件事故現場は、見通しの良い直線道路で東方同車線は幅四・二メートル、西方向車線は幅三・三メートルである。被告は東方向車線を走行中、付近の人に植木のことを聞こうとして下車するため、加害車を車道北側に寄せて停止させた。他方、原告は被害車を運転し、東方向車線を時速約三〇キロメートルで走行してきたが、進路前方に加害車が停止していたため、加害車の右側方を通過しようとした。被告は下車するため、運転席ドアを開けるに際し、後方の安全を充分に確認せず、危険はないと軽信し、いつきにドアを開けたため、本件事故が生じた。以上の事実が認められ、被告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし信用することはできない。そのほか、右認定を左右するに足りる資料はない。

以上の事実によれば被告には後方からの交通の安全を充分確認しないでドアを開けた過失が認められる。

したがつて被告は、自賠法三条、民法七〇九条により原告に生じた損害を賠償する責任がある。

四  過失相殺

被告は原告にも過失があるとし、過失相殺を主張するのでこの点につき検討する。前掲乙第一号証の一、二、第三、第四号証、第七号証及び証人栗栖町子の証言、原、被告本人尋問の結果を総合すれば以下の事実を認めることができる。すなわち本件事故現場の道路右側のガソリンスタンドに原告の夫の友人がおり、原告も気がついていた。また本件事故当時付近には通行中の車両はなく、原告は対向車線にはみ出して進行することも可能であつたが、加害車の右側方の近距離を進行しようとした。さらに本件事故当時、加害車の後部座席には障害物はなく加害車と被害車との間にも障害物がなかつたから、原告は、加害車の内部をある程度確認することができた。以上の事実が認められ、原、被告各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし信用することはできない。以上の事実によると、原告においても、停車中の加害車の近距離を通過するにあたり、加害車の動静に注視して安全な走行方法と速度をとらなかつた過失があつたものといわなければならず、本件事故における原告の右過失割合は、被告の前記過失との対比において、総合勘案すると、二〇パーセントと認めるを相当とする。

五  損害

そこで、次に原告の受けた損害について検討する。

(一)  医療関係 五万〇、八八〇円

原告が医療関係として五万〇、八八〇円の損害を受けたことは当事者間に争いがない。

(二)  休養損害 五八万一、三六〇円

いずれも成立に争いのない甲第一、第二第九号証、乙第四、第五号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は本件事故当時、四二歳の健康な主婦であつたことが認められる。また五五年度賃金センサス第一巻第一表の女子労働者学歴計年齢階級別賃金表によると、原告と同年齢階級の平均年収は一八三万七、二〇〇円である。そして、前記認定のように原告は本件事故により六〇日間入院し、一一一日間通院(実通院日数三五日)したのであるが、原告本人尋問の結果によれば、昭和五七年三月の時点でも、なお原告は以前行なつていた社会的活動やスポーツに従事し得てないことや、本件事故のあつた年の冬期は痛みで正座できなかつた事実が認められることなどからすると、原告は右通院中の期間、本件傷害によつて主婦としての職務の遂行能力を半分程度喪失したものと考えるべきであるから、以上の事実により原告の休業損害を算定すると五八万一、三六〇円となる。

{(1,837,200×60/365)+(1,837,200×0.5×111/365)}=581,360

(三)  後遺障害による逸失利益 一六万七、四九八円

前に認定したとおり、本件事故時満四二歳の健康な主婦であつたところ、前記後遺症の事実に原告本人の供述をあわせ考えると、原告は前記後遺症により労働能力を五パーセント喪失し、その喪失期間は、前記症状固定時から二年間継続するとみるべきである。そして、原告の年収は前記のとおり一八三万七、二〇〇円とみるべきであるから、右所得を基準として、原告の逸失利益の本件事故時における現在価額を新ホフマン方式により中間利息を控除して算定すると一六万七、四九八円となる。

(1,837,200×0.05×18,614≒170,988)

〈省略〉

(四)  雑費 六万八、〇〇〇円

原告に、入院中雑費として三万六、〇〇〇円(一日六〇〇円として六〇日間)、事故証明料として五〇〇円の損害があつたことは当事者間に争いがない。通院交通費については、原告本人尋問の結果によれば、片道四五〇円である事実が認められ前記認定のように実通院日数は三五日間であるから三万一、五〇〇円となる。そして、以上を合計すると六万八、〇〇〇円となる。

(五)  慰藉料 一五五万円

本件事故の態様、治療の経過、傷害及び後遺障害の程度・部位、入通院期間その他既に認定した諸般の事情(ただし、原告の過失については後記過失相殺として斟酌)を考慮すると、原告が本件傷害及び後遺障害によつて蒙つた精神的損害は傷害につき一〇〇万円、後遺障害につき五五万円が相当である。

(六)  物損 一万〇、一五〇円

成立に争いのない甲第八号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、本件事故により被害車が破損し、その修理費用は一万〇、一五〇円であつた事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる資料はない。

以上の損害額合計二四二万七、八八八円に前記喪失相殺をして原告の損害額を算定すると一九四万二、三一〇円となる。

六  次に、抗弁2の事実につき判断する。

原告が本件事故により自賠責保険から傷害分として四六万三、六六〇円、後遺障害分として七五万円の各支払いを受けた事実は当事者間に争いがない。右のほか原告が傷害分として七三万六、三四〇円の支払いを受けた事実については、これを認めるに足りる証拠がない。

したがつて、前記損害額一九四万二、三一〇円から損害填補額四六万三、六六〇円及び七五万円の合計一二一万三、六六〇円を差し引くと七二万八、六五〇円となる。

七  弁護士費用 八万円

弁論の全趣旨を総合すれば、原告が本件訴訟の提起と追行を本件原告訴訟代理人に委任した事実が認められる。そして、本件事案の難易、訴訟の経過、原告の請求額とこれに対する認容額その他諸般の事情を考慮すると、被告に賠償させるべき弁護士費用としては八万円が相当である。

八  結論

以上によると、被告は原告に対し、自賠法三条、民法七〇九条による損害賠償として、金八〇万八、六五〇円及び弁護士費用を除いた金七二万八、六五〇円に対する、損害発生の日である昭和五五年六月三日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告の本訴請求は、右の限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠森真之)

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